「NHK”性暴力”裁判 被害女性が語った15分の言葉」(2022年4月15日の記事)に付されたアンケートに関する意見と要望

NHK「性暴力を考える」取材班様

 本記事(https://www.nhk.or.jp/gendai/comment/0026/topic054.html)は、NHKが性暴力被害に遭った女性からの要望に応えて、被害者の裁判について取材して書かれたものです。この裁判において、彼女が被害者参加制度を使って訴えかけた内容はとても素晴らしく、多くの人々の心を打ちました。このような記事を書いてくださった「性暴力を考える」取材班には心よりの感謝を申し上げます。しかしながら、この記事の末尾に付されていた「性暴力について実態調査のためのアンケート」には、見逃すことのできない問題があると思われましたので、ここに意見と要望を書かせていただきます。

 このアンケートのQ4に「あなたが自認している性別(性自認、ジェンダー自認)を選んでください」とあります(https://forms.nhk.or.jp/q/UM99PWSX#page1)。私たちはこの設問に大変驚き、また絶望させられました。女性は自認している性別が女性だから、性暴力に遭ったのでしょうか。性暴力を受ける前に「お前の性自認は女性なのか?」と確認されてから性暴力に遭うのでしょうか。いいえ、ただ身体が女性だから被害に遭ったというのが事実です。どんな格好をしていようと、女性らしい見た目をしていなくても、女性はその身体が女性であるがゆえに性被害に遭うのです。また、性被害者の多くは夜道を歩いていて見知らぬ人に襲われるのではないことは、よくご承知のことと思います。多くは知り合いから被害を受けるのです。知り合いはその人が男性か女性かを知ったうえで加害を行なうのであり、そこで決定的なのは自認ではないことは明らかです。にもかかわらず、Q5で「あなたの生まれの性別(出生時の戸籍上、出生届の性別)を選んでください」と問う前に、Q4で「あなたが自認している性別(性自認、ジェンダー自認)を選んでください」と尋ねることは、性別は基本的に本人の自認によって決まるという考えに基づいていると考えざるをえません。

 これは、女性であるから性被害に遭ったという事実をうやむやにしてしまう「性自認至上主義(性別を基本的に本人の性自認によって決まるとする思想と運動)」の動きと連動していると思われます。女性として生れた者は、生後数ヶ月の女児から高齢の女性に至るまで等しく性被害に遭いますし、女性差別にも遭い続けます。しかし現在、さまざまなところで、性自認に従って(=生まれた時の性別とは違う性別で)生きたい人の希望が優先されるべきであるという基準に基づいて、社会のルールや制度の運用の変更を求める動きがあり、それは、女性たちの受けている被害と差別を不可視化させるものです。したがってそれは、人口の半数以上いる女性たちの安全と人権を脅かすものであり、たいへん危険な思想です。NHK「性暴力を考える」取材班の方々は、性被害者のほとんどを占める女性と女性差別を不可視化させる「性自認至上主義」を推進し、身体の性別を軽視して良いとのお考えなのでしょうか。もしそうであるならば、性被害問題への取り組みは根本から変質してしまうことになるでしょう。

 このように、被害者に対しては性自認を実際の性別より先に尋ねているにもかかわらず、同じアンケートの「Q 11」では、「加害者の性別をお答えください」とだけあり、加害者の性自認については、まったく問われていません。これはいったいどうしてなのでしょうか。実際、アンケートへの質問・コメント(https://www.nhk.or.jp/gendai/comment/0026/topic048.html)の中には、「加害者がトランスジェンダー(身体は男性で性自認は女性)でした。その場合、加害者の性別はどう回答すればいいのでしょうか」と質問をされている方もおられました。しかし、ここで加害者の性自認がまったく問われていないのは、NHK取材班の方も、本当は性自認が問題なのではなく、身体の性別(sex)が問題であると理解しているからではないでしょうか。

 ちなみに、先の質問に対してNHK取材班の方は、「Q11『加害者の性別』の選択肢に当てはまるものが無い場合は、Q10の『その他』に書き込んでください。Q11は未選択で構いません」と答えています。「その他」でいいのなら、どうしてQ4、Q5でそうしなかったのでしょうか? 性別を基本的に生物学的性別ないし戸籍上の性別で尋ねたうえで、その問いに答えたくない人のために、「その他」を設けることもできたはずです。

 この性被害アンケートのように自認している性別を(しかも生まれの性別より先に)尋ねることによって、人の性別を決めるのは基本的に「性自認」であるという考えを世間に広めてしまうことで何が起きるでしょうか。例えば女性用トイレで男性に見える女装の人に出くわした場合、すぐに逃げることは失礼にあたるかもしれない、差別と言われるかもしれない、この人の性自認は女性かもしれない、と逃げるための行動を鈍らせることになりかねません。その結果、性被害に遭ってしまった場合、取り返しがつきません。

 性被害者にまずもって「性自認」を尋ねるようなアンケートはやめてください。「性自認」には現在、明確な定義は存在せず、そのような設問をアンケートに設けること自体にも疑問を感じますが、それ以上に、実際の性別よりもそれを先に尋ねることで、性別は基本的に性自認によって決まるという考えを広げることになります。それは、上記で述べたように深刻な問題があります。私たちは、女性の人権と安全を守る立場から、このことに強く抗議をいたします。同時にNHK全体に対して、「性自認至上主義」を推進する姿勢を抜本的に見直すよう切に希望いたします。

2022年4月28日

No!セルフID  女性の人権と安全を求める会

共同代表 石上卯乃 桜田悠希

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